1. 表示スプレッドは、コストの一部でしかない
海外FXの業者選びで最もよく使われる指標がスプレッドです。「0.0pips〜」という表示を見れば安く感じますし、「1.6pips」と書かれていれば高く感じます。ところがこの数字だけで判断すると、しばしば結論を誤ります。
理由は単純で、スプレッドはあなたが負担している金額の一部でしかないからです。実際には次の3つの項目があります。
実質コスト = スプレッド + 取引手数料 − キャッシュバック
第1項のスプレッドだけを見ている人が最も多く、第2項の取引手数料まで見ている比較記事がその次に多い。そして第3項のキャッシュバックまで差し引いている記事は、ほとんど存在しません。
なぜ第3項が書かれないのか
事情ははっきりしています。スプレッド比較の記事は、ブローカーが運営するメディアであることが少なくありません。自社のコストを低く見せたい立場からすると、第三者のキャッシュバックサービスを前提にした計算は都合が悪くなります。
結果として、読者が実際に負担している金額とは違う数字で順位が作られます。この記事で扱いたいのは、その差です。
2. 第1項:スプレッドを金額に直す
計算の最初のステップは、pips表示のスプレッドを金額に直すことです。ここに多くの比較記事が触れていない落とし穴があります。
1pipの価値は通貨ペアで変わる
EUR/USDのようなドルストレート通貨では、1pip=0.0001ドルです。1ロット(10万通貨)を取引した場合、1pipの価値は 100,000 × 0.0001 = 10.0 USD ちょうどになります。
一方でドル円などのクロス円は、1pip=0.01円です。1ロットなら 100,000 × 0.01 = 1,000円。1ドル150円で換算すると約6.7 USDにしかなりません。
EUR/USDの1.5pipsは15USDですが、ドル円の1.5pipsは約10USDです。同じpips表示でも、金額にすると5割近い差が出ます。スプレッドの数字だけを並べて「A社のほうが狭いから安い」と判断すると、通貨ペアが違えば結論が逆になることもあります。比較するときは必ず通貨ペアを揃えてください。この記事の比較はすべてEUR/USD基準で統一しています。
計算例
| 条件 | 計算 | スプレッドコスト |
|---|---|---|
| EUR/USD 1.6pips | 1.6 × 10 USD | 16.0 USD |
| EUR/USD 0.1pips | 0.1 × 10 USD | 1.0 USD |
| ドル円 1.6pips | 1.6 × 1,000円 ÷ 150 | 約 10.7 USD |
3. 第2項:取引手数料を足す
ECN系やRaw系と呼ばれる口座タイプは、スプレッドが極端に狭い代わりに取引手数料が別途発生します。この手数料は片道で表記されることも往復で表記されることもあるため、比較するときは揃える必要があります。
| 口座タイプの例 | 手数料(1ロット往復) | pips換算 |
|---|---|---|
| ThreeTrader Rawゼロ | 約 4 USD | 約 0.4pips |
| IC Markets Raw(cTrader) | 約 6 USD | 約 0.6pips |
| IC Markets Raw(MT4/MT5) | 約 7 USD | 約 0.7pips |
| BigBoss プロスプレッド | 約 9 USD | 約 0.9pips |
手数料をpipsに直す簡単な方法
主要通貨ペアを1ロット取引する場合、往復手数料(USD)を10で割ればpips換算の目安になります。往復6USDなら約0.6pips、往復7USDなら約0.7pips相当です。EUR/USDの1pip=10USDという関係を使った換算なので、この式が成り立ちます。
この換算ができると、「手数料あり口座」と「手数料なし口座」を同じ土俵に乗せられます。たとえばスプレッド0.1pips+往復7USDの口座は、合計で 0.1 + 0.7 = 0.8pips相当。スプレッド1.2pipsの手数料無料口座より、実際には安いということが見えてきます。手数料水準の妥当性は往復手数料7ドルは高いのかを検証した記事で詳しく扱っています。
手数料が表示されない口座タイプは、その分がスプレッドに含まれています。ブローカーの利益が見えにくい場所に移っているだけで、負担が減ったわけではありません。手数料の有無ではなく、合計額で比べてください。
4. 第3項:キャッシュバックを引く
ここが本記事の主題です。第1項と第2項を足した金額から、キャッシュバックを差し引きます。
キャッシュバックは1ロットあたりの固定額で提供されるのが一般的です。TariTaliの場合、XMのスタンダード口座なら8.5USD、Exnessのスタンダード口座なら7.0USD、IC Marketsなら5.5USDといった水準です。各社の還元率はキャッシュバック率を全ブローカーで比較した記事にまとめています。
引いてみると順位が変わる
この表がすべてを物語っています。XMは還元額が8.5USDと最も大きいのに、実質コストでは下位に沈みます。もともとのスプレッドが広いため、大きな還元でも支払う総額を打ち消しきれないからです。
逆にThreeTraderは還元額が5.0USDとXMより小さいにもかかわらず、実質コストは最小になります。支払っている額がもともと小さいためです。
- 還元額の大きさで業者を選ばない……大きく戻ってくることと、支払う額が小さいことは別
- もともと安い口座ほど還元が効く……同じ金額が戻るなら、支払いが小さいほど相殺の割合が大きくなる
5. 自分の実質コストを計算する手順
ここまでの内容を、実際に手を動かす手順に落とし込みます。電卓ひとつでできます。
| 手順 | やること | 例 |
|---|---|---|
| STEP 1 | 取引履歴から、実際の約定スプレッドを調べる | EUR/USD 平均1.2pips |
| STEP 2 | pipsを金額に直す(EUR/USDは ×10 USD) | 1.2 × 10 = 12 USD |
| STEP 3 | 往復の取引手数料を足す | 12 + 0 = 12 USD |
| STEP 4 | キャッシュバック率を引く | 12 − 5.0 = 7.0 USD |
年間の負担額まで出す
1ロットあたりの実質コストが出たら、月間のロット数と1ドルの円換算レートを掛けます。
年間コスト = 実質コスト(USD) × 月間ロット数 × 12 × 為替レート
| 月間ロット数 | 実質7.0USDの場合 | 実質4.0USDの場合 | 年間の差 |
|---|---|---|---|
| 10ロット | 年 約126,000円 | 年 約72,000円 | 約54,000円 |
| 30ロット | 年 約378,000円 | 年 約216,000円 | 約162,000円 |
| 60ロット | 年 約756,000円 | 年 約432,000円 | 約324,000円 |
1ロットあたり3USDの差は小さく見えますが、年間に直すと数十万円になります。取引の手法も勝率も変えずに生まれる差だという点が重要です。
6. 計算するときの注意点
注意1:スプレッドは変動する
比較の出発点としては固定値で構いませんが、実際の負担額を知りたいなら自分の取引履歴に記録された約定時のスプレッドを使ってください。指標発表の前後、早朝の流動性が低い時間帯、週明けの窓開け時にはスプレッドが大きく開きます。その時間帯に取引することが多い方は、平常時の数値より高めに見積もる必要があります。
注意2:通貨ペアと銘柄で条件が変わる
ゴールド(XAU/USD)や株価指数などのCFD銘柄は、通貨ペアとはpip価値もキャッシュバックの計算方法も異なります。主戦場がCFD銘柄という方は、その銘柄での条件を個別に確認してください。ゴールドについてはゴールドの実質コストを比較した記事で扱っています。
注意3:コストを下げても勝てるようにはならない
実質コストを下げることは、同じ取引をしたときに手元に残る額を増やすという意味です。エントリーの判断が悪ければ、コストがゼロでも資金は減っていきます。「コストを下げれば勝てる」という理解は誤りです。ただし取引回数が多い手法ほどコストの累計は大きくなるため、損益に与える影響は無視できません。
7. 口座タイプを選ぶときの使い方
この計算式が最も役に立つのは、同じブローカー内で口座タイプを選ぶ場面です。
| よくある誤解 | 実質コストで見ると |
|---|---|
| 「手数料無料だから安い」 | スプレッドに含まれているだけ。合計では高いことが多い |
| 「スプレッド0.0pipsだから最安」 | 手数料を足すと逆転することがある |
| 「CB率が高い口座がお得」 | 還元額と支払額は別。合計で判断する |
| 3項目を足し引きする | どの口座が本当に安いか一意に決まる |
スタンダード口座とECN口座のどちらを選ぶべきかという判断は、この計算式で答えが出ます。ただし損益分岐となるロット数が存在するため、取引量によって結論が変わります。詳しくはスタンダードとECNをキャッシュバック込みで比較した記事をご覧ください。
8. まず第3項を持つところから
この記事の計算式には、前提が1つあります。第3項を引くには、キャッシュバックを受け取れる状態になっている必要があるという点です。
キャッシュバックはIB(Introducing Broker=紹介業者)の仕組みで成り立っており、どのIBに紐づくかは口座を開設したときに経由したリンクで確定します。すでに開設済みの口座を後から対象にすることは、原則としてできません。仕組みの詳細はTariTaliの仕組みと評判を検証した記事で解説しています。
つまり今の口座のままでは、この計算式の第3項は常にゼロです。実質コストを下げる余地があるかどうかを確かめる前に、引ける項目を持っているかどうかを確認してください。作り方はブローカーごとに追加口座の作り方をまとめた記事と各社の個別記事に整理しています。
上の図は、実質コストの改善分が積み上がっていくイメージです。1回の取引では数USDの違いでも、続けるほど差は開いていきます。
9. よくある質問
10. まとめ:3項目を足し引きするだけ
- 実質コスト = スプレッド + 取引手数料 − キャッシュバック。この式だけ覚えればよい
- pip価値は通貨ペアで違う。EUR/USDは1pip=10USD、ドル円は約6.7USD。揃えて比べる
- 往復手数料 ÷ 10 = pips換算の目安。手数料あり口座となし口座を同じ土俵に乗せられる
- 還元額の大きさで選ばない。XMは還元最大でも実質コストは下位
- コストを下げても勝てはしない。変わるのは同じ成績のときの手取り
スプレッドの数字だけを見比べる習慣をやめて、3項目を足し引きするようにすると、業者選びの結論はかなり変わります。とくに第3項を入れるかどうかで順位が入れ替わるという点は、他の比較記事ではまず触れられていません。
具体的な業者の順位を知りたい方は主要12口座の実質コストを比較した記事へ、口座タイプの選び方で迷っている方はスタンダードとECNの比較記事へ進んでください。