1. 「勝てないEA」と判定する前に、コストを計算する
EAの成績が伸びないとき、真っ先に疑われるのはロジックです。パラメータを調整し、別のEAを探し、バックテストをやり直す。この順番は自然に見えますが、ひとつ飛ばされている工程があります。
そのEAが1年間に払っている取引コストの総額です。
この数字を出さないまま「勝てないEA」と判定してしまうと、実際にはロジックが勝っていたケースを取り逃がします。年間の損益がマイナス20万円で、年間コストが86万円なら、EAは相場から66万円を取ってきていることになります。負けているのはロジックではなく、コストとの差し引きです。
「EAの年間損失額」と「EAの年間コスト」を並べてください。損失がコストより小さければ、ロジックは相場に勝っています。この場合、改善すべきはロジックではなくコスト側です。逆に損失がコストを大きく超えているなら、そこは本当にロジックの問題です。
2. EAの損益は3つの層でできている
EAの月間損益として画面に表示される数字は、実際には複数の要素が合わさった結果です。分解すると、性質のまったく違う3つの層に分かれます。
①は相場との勝負なので、努力と結果が比例しません。パラメータを調整しても、次の相場で通用する保証はありません。改善に最も時間がかかり、最も不確実な領域です。
一方で②と③は、相場とまったく関係のないところで決まります。どの業者のどの口座を使うか、還元を受け取る仕組みを通しているかどうか。これは選択の問題であり、確実に結果が変わります。
にもかかわらず、EAの議論はほぼ①に集中します。EAを販売する側にとって語る価値があるのは①だけなので、当然といえば当然です。②と③は、使う側が自分で管理するしかありません。
3. 月30ロットのEAが1年に払う金額
具体的な数字で見ます。0.3ロットで月100回取引するEAを想定します。月間の取引量は30ロットです。EAとしては特別に多い量ではありません。
往復コストが16 USD相当の口座を使っているとします。EUR/USDで1 pipが10 USDなので、これは往復1.6 pips分に相当します。海外FXのスタンダード口座としては標準的な水準です。
年間864,000円。これがEAの利益から差し引かれている金額です。EAが年間で86万円を超える利益を出して、ようやく手元にプラスが残ることになります。
同じロジックでも、取引頻度が2倍のEAならコストも2倍です。スキャルピング型のEAほど、この壁は高くなります。「取引回数が多いEAは勝ちにくい」と言われるのは、ロジックの問題である以前に、超えるべき金額が大きいからです。
そして還元を入れると、この壁が下がります。CB率8.5 USDなら年間459,000円が戻るため、実質的に超えるべき金額は405,000円になります。EAには一切触れずに、壁の高さが半分以下になるということです。
4. バックテストと実運用が乖離する理由
「バックテストではプラスなのに、実際に回すとマイナスになる」という現象も、多くはこのコスト層で起きています。
| 項目 | バックテスト | 実運用 |
|---|---|---|
| スプレッド | 固定値で計算されることが多い | 時間帯・指標発表で大きく開く |
| 約定 | 指定した価格で成立する前提 | 滑ることがある |
| 手数料 | 設定を忘れると計算に入らない | 口座タイプによっては必ず発生 |
バックテストで想定したスプレッドが1.0 pipsで、実際の平均が1.6 pipsだったとします。差は0.6 pips、1ロットあたり6 USDです。月30ロットなら月180 USD、年間で2,160 USD、およそ32万円の差になります。
ロジックはまったく同じで、想定コストがずれていただけでこの金額です。スプレッドの影響を取引回数と年単位で換算した詳しい試算はスプレッドがEAの成績に与える影響を検証した記事で扱っています。
5. 実質コストで業者を並べ直す
コスト側を改善するとき、多くの人はスプレッドの狭さだけで業者を比較します。しかしEAのように取引量が大きい場合、還元を差し引いた金額で比べないと判断を誤ります。
注目すべきはXMとAXIORYの位置関係です。スプレッドだけで比べればAXIORYのほうが有利に見えます。ところが年間の実質負担は、XMが405,000円、AXIORYが580,500円。還元率の差が、スプレッドの差を逆転させています。
この逆転は、取引量が大きいほど起きやすくなります。還元は取引量に比例して増えるため、月に数ロットしか動かさない裁量トレードでは差が小さく、月30ロットのEAでは決定的な差になります。
ECN型の低スプレッド口座に移せばコストが下がる、と考えるのは早計です。スプレッドが狭い口座はキャッシュバック率も低く設定されているのが一般的で、下がった分だけ還元も減ります。どちらが有利かは口座ごとに違うため、実質コストで比較した記事で確認してください。
6. 勝率を変えずに収支を反転させる
ここまでの要素を、ひとつの損益表にまとめます。EAの取引損益が月50,000円のプラス、往復コスト16 USD相当の口座で月30ロットという条件です。
3行とも、EAが相場から取ってくる金額は50,000円で同じです。パラメータもロジックも触っていません。それでも月間の手取りは、マイナス22,000円からプラス32,000円まで動きます。年間に直すと、264,000円のマイナスが384,000円のプラスへ変わる計算です。
- 還元を受け取る仕組みを通した(月38,250円の回収)
- 往復コストの低い業者に移した(月22,500円の削減)
どちらも相場観を必要としません。バックテストも要りません。EAの成績を予想する必要すらなく、実行すれば確実にその金額だけ結果が変わります。ロジック改善に費やす労力と比べたとき、費用対効果の差は明らかです。
7. コスト改善では埋まらない場合
誤解を避けるために、限界もはっきりさせておきます。
コスト改善で回収できるのは、支払っている金額の範囲までです。年間コストが864,000円のEAなら、理論上の改善幅の上限もその範囲に収まります。年間の損失が300万円出ているなら、コストをどれだけ削っても届きません。
| 年間の損失額 | 判断 |
|---|---|
| コスト総額より小さい | ロジックは勝っている。コスト側の改善で反転する可能性が高い |
| コスト総額と同程度 | 境界線。コスト改善で収支がゼロ付近まで戻る |
| コスト総額を大きく超える | ロジック側の問題。コスト改善だけでは足りない |
ただし3行目の場合でも、コスト改善をやらない理由にはなりません。ロジックを改善したあと、コストが高いままなら同じ壁にぶつかるからです。順序としては、先にコストを下げてからロジックを評価するほうが、EAの実力を正しく測れます。
8. 実行の手順
コスト側の改善は、次の順番で進めます。
- ① 過去1年の取引履歴からロット数の合計を出す。ここが起点になる
- ② 現在の口座の往復コストを掛けて、年間コストを算出する
- ③ 年間の損益と並べて、どちらの問題かを切り分ける
- ④ 実質コストで業者と口座タイプを選び直し、還元を受け取る形にする
④について、ひとつ構造上の注意があります。キャッシュバックはIB(紹介業者)の仕組みで成り立っており、どのIBに紐づくかは口座を開設したときに経由したリンクで確定します。すでに持っている口座を後から還元対象に変えることはできません。
そのため、同じ業者を使い続ける場合でも追加口座を作り、EAをそちらへ設定し直す作業が必要になります。EAの設定ファイルをそのまま移せばよいので手間は小さいものですが、この一手間を飛ばすと還元は発生しません。手順はEA・自動売買とキャッシュバックの記事にまとめています。
9. よくある質問
10. まとめ:ロジックを疑う前に、金額を出す
- 年間コストを計算しないと、ロジックの評価ができない
- 月30ロットで往復16 USD相当なら、年間コストは約864,000円
- 還元8.5 USDで年間459,000円が戻り、超えるべき壁が半分以下になる
- 業者はスプレッドではなく実質コストで並べ直す。順位が入れ替わる
- 損失がコスト総額より小さいなら、ロジックは勝っている
EAの改善というと、どうしてもロジックの話になります。しかしロジックの改善は、時間をかけても結果が保証されない領域です。それに対してコスト側の改善は、実行した時点で金額が確定します。
しかも両者は排他的ではありません。コストを下げてからロジックを評価すれば、EAの実力をより正確に測れます。順序として先にやるべきなのは、確実に効くほうです。
まずは過去1年の取引履歴を開いて、ロット数の合計を出すところから始めてください。その1行の数字が、これまで見えていなかった金額を明らかにします。具体的な金額は取引コスト計算ツールで確認できます。