1. まず単位をそろえる
スプレッドの議論がわかりにくいのは、単位がばらばらのまま語られるからです。スプレッドはpips、キャッシュバックはUSD、成績は円。この3つが混ざったままでは比較ができません。
そこで最初に、換算の基準を固定します。
EUR/USDでは1 pipが1ロットあたり10 USDです。この関係は固定されているので、pipsとUSDは自由に行き来できます。円換算は1ドル150円を使います。つまり1 pipは1ロットあたり1,500円です。
この換算を持っておくと、スプレッドの差もキャッシュバック率も、すべて同じ物差しの上に乗ります。比較できるようになった瞬間に、判断が変わります。
2. 0.5pipsの差が1年でいくらになるか
業者を比較すると、同じEUR/USDでもスプレッドに0.5 pips程度の差があることは珍しくありません。この差を年額に直します。
月30ロットで年間270,000円。月100ロットなら年間900,000円です。EAは取引量が大きくなりやすいため、わずかに見える差がそのまま大きな金額になります。
別の切り口で見ると、0.5 pipsの差は1日50回取引すれば1日あたり25 pips分に相当します。裁量トレードで25 pipsといえば、それなりの利益幅です。それが毎日、コスト側だけで発生していることになります。
3. キャッシュバックをpipsに換算する
ここからが本題です。同じ換算をキャッシュバックにも適用します。
キャッシュバックは1ロットあたりのUSD建て金額で決まります。CB率8.5 USDということは、8.5 ÷ 10で0.85 pips。スプレッドが0.85 pips狭い口座に乗り換えたのと、金額の上では同じ意味を持ちます。
この表を、先ほどの「業者間の差は0.2 pipsから0.5 pips」と並べてみてください。還元の効果は0.425 pipsから0.85 pips。多くの場合、業者を乗り換えることで得られる改善幅を上回ります。
スプレッド比較の記事は、各業者の数値を小数点第2位まで並べます。しかしそこに還元の項目はありません。0.85 pips分の要素が抜けた表で順位を決めていることになります。0.1 pipsの差を吟味しながら、0.85 pipsを見ていないわけです。
4. 平均利益幅に対する比率で見る
実額だけでなく、EAの性質との関係でも見ておきます。重要なのは、スプレッドがEAの平均利益幅に対してどれくらいの割合を占めるかです。
1回の取引で平均5 pipsを取るEAを想定します。往復スプレッドが1.6 pipsなら、手元に残るのは3.4 pips。取ってきた利益の32パーセントがコストで消えている計算です。
最終行が結論です。標準的な口座に還元を入れた状態は、実質0.75 pips。低スプレッド口座の1.0 pipsより有利になります。スプレッドの数値だけを見ていると、この逆転は絶対に見えません。
平均利益幅が3 pipsのEAなら、往復1.6 pipsのスプレッドは53パーセントを占めます。2 pipsのEAなら80パーセントです。短い利幅を狙うEAほど、コストが成績を支配します。スキャルピング型のEAが「業者を選ぶ」と言われるのは、この比率の問題です。
5. 表示されるスプレッドと実際のスプレッド
もうひとつ、見積もりを狂わせる要因があります。宣伝されているスプレッドと、実際に支払うスプレッドが一致しないことです。
| どの数値か | どういう場面の値か |
|---|---|
| 最小スプレッド | 流動性が最も高い一瞬の値。宣伝で使われる |
| 平均スプレッド | 実際に負担する水準に近い。こちらで見積もる |
| 拡大時のスプレッド | 指標発表や早朝。数倍になることがある |
裁量トレードなら、スプレッドが広がっている時間帯を避けられます。しかしEAは違います。指示がないかぎり、24時間そのまま取引を続けます。
つまりEAが実際に支払っているのは、狭い時間帯と広い時間帯を平均した値です。最小スプレッドで年間コストを見積もると、実際より小さく出ます。時間帯ごとの傾向はスプレッドが広いときの対処法で詳しく扱っています。
6. バックテストと実運用が食い違う理由
「バックテストでは右肩上がりなのに、実運用ではマイナス」という現象の多くは、この見積もりのずれから来ています。
バックテストのスプレッド設定を1.0 pipsにして、実際の平均が1.6 pipsだったとします。差は0.6 pips、1ロットあたり6 USD。月30ロットなら月180 USD、年間およそ324,000円がテスト結果と現実の差になります。
| テスト条件 | 年間の見積もりコスト(月30ロット) |
|---|---|
| 1.0 pipsで設定 | 約540,000円 |
| 実際は1.6 pips | 約864,000円 |
| 差 | 約324,000円がテストに反映されていない |
ロジックはまったく同じで、想定コストがずれていただけです。年間の損益が30万円前後で推移するEAなら、この差だけでプラスとマイナスが入れ替わります。
対策は単純で、テストのスプレッドを実際の平均か、やや広めに設定することです。結果が悪く出るようになりますが、それが現実に近い数字です。損益の分解についての詳細はEAが勝てない理由の記事をご覧ください。
7. 改善の順番を金額で決める
ここまでの数値を、実行可能な打ち手として並べます。月30ロット、往復1.6 pipsの口座を使っている前提です。
| 打ち手 | pips換算 | 年間の効果額 |
|---|---|---|
| 還元を導入する(8.5 USD) | 0.85 pips | 約459,000円 |
| スプレッドの狭い業者へ移す | 0.2〜0.5 pips | 約108,000〜270,000円 |
| 広がる時間帯を避ける | ロジック次第 | EAの設計に依存する |
効果額が最も大きいのは還元の導入です。しかも上2つは同時に実行できます。還元を受け取る形で、スプレッドの狭い業者に口座を開けばよいだけです。
キャッシュバックはIB(紹介業者)の仕組みで成り立っており、どのIBに紐づくかは口座を開設したときに経由したリンクで確定します。先に口座を開いてしまうと、その口座は還元の対象になりません。登録を済ませてから口座を開いてください。
8. 実質コストで並べ直すとどうなるか
最後に、スプレッドと還元を両方含めた実質コストで業者を並べます。1ロットあたりのUSD建てで比較します。
| 業者 | 往復コスト | キャッシュバック | 実質コスト |
|---|---|---|---|
| Exness | 11 USD | 7.0 USD | 4.0 USD(0.40 pips相当) |
| IC Markets | 10 USD | 5.5 USD | 4.5 USD(0.45 pips相当) |
| TitanFX | 12 USD | 5.0 USD | 7.0 USD(0.70 pips相当) |
| XM | 16 USD | 8.5 USD | 7.5 USD(0.75 pips相当) |
| AXIORY | 15 USD | 4.25 USD | 10.75 USD(1.075 pips相当) |
XMとAXIORYを比べてください。往復コストではAXIORYのほうが1 USD安いのに、還元を差し引くと3.25 USD高くなります。pipsに直せば0.325 pipsの逆転です。
スプレッド比較の順位と、実質コストの順位は一致しません。計算の手順は実質コストの計算方法にまとめています。
9. よくある質問
10. まとめ:0.85pipsを見ないまま順位を決めない
- 0.5pipsの差は月30ロットで年間270,000円。取引量に比例する
- CB率8.5 USDは0.85pips分に相当する。業者間の差より大きいことが多い
- 平均利益幅5pipsのEAでは、往復1.6pipsが32パーセントを占める
- 還元込みなら実質0.75pips。低スプレッド口座を上回る
- バックテストのスプレッド設定は実際の平均かやや広めに
スプレッド比較の表は、小数点第2位まで精密に並んでいます。それを何時間も見比べて業者を決める人は少なくありません。しかしその表には、0.85 pips分の要素が最初から入っていません。
0.1 pipsの差を吟味しながら0.85 pipsを見ていない。精度の高い比較をしているつもりで、最も大きい項目を落としているという状態です。
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