1. 打ち手は3つしかない
EAの収支をロジックに手を触れずに改善しようとすると、選択肢は意外なほど限られます。相場と無関係に動かせる部分は、次の3つだけです。
| 打ち手 | 何を変えるのか |
|---|---|
| ① 還元を導入する | 取引量に応じて戻る分を発生させる |
| ② 業者を変える | 1ロットあたりの出ていく金額を下げる |
| ③ 口座タイプを変える | 同じ業者内でコストの構成を組み替える |
問題は順番です。この3つは効果額がまったく違うのに、語られる頻度は効果額と一致していません。最も紙面を割かれる打ち手が、最も金額が動かないという状態になっています。
2. 年間の効果額で並べ直す
比較の条件をそろえます。0.3ロットで月100回、月間30ロットを動かすEA。現状はXMのスタンダード口座で、往復コストは16 USD相当(EUR/USDで往復1.6 pips相当)とします。
①が459,000円、②が189,000円、③が40,500円。合計すると、年間の効果額はおよそ69万円になります。同じEA、同じ勝率のままで、です。
注目すべきは①と③の差です。11倍以上あります。しかも手続きの手間は逆で、①は登録と口座開設だけ、③は口座タイプの比較検討が必要になります。
3. なぜ効果の小さい打ち手ばかり語られるのか
この逆転には理由があります。情報の出どころの問題です。
口座タイプの話は、ブローカー自身が説明します。自社の口座を比較する内容なので、公式サイトにも比較記事にも必ず載ります。業者の変更も、スプレッド比較という形で多くのメディアが扱います。
ところが還元は違います。ブローカーにとって、キャッシュバックを積極的に説明する動機がありません。還元はIB(紹介業者)に支払われた報酬の一部がトレーダーに戻る仕組みで、ブローカーの取り分が増えるわけではないからです。
キャッシュバックは、口座を開くときに経由したリンクによって紐づけが決まります。つまり存在を知らないまま口座を開いた人には、以後どれだけ取引しても発生しません。知識の有無がそのまま金額の差になる、という点で他の2つと性質が違います。
4. 打ち手③:口座タイプの効果が小さい理由
「ECN口座はコストが安い」という説明は、スプレッドだけを見れば正しいものです。しかし比較すべきは、スプレッドと取引手数料を足し、そこから還元を引いた金額です。
往復コストで見れば、ゼロ口座のほうが5 USD安くなります。ところが還元率がスタンダードの8.5 USDからゼロ口座の4.25 USDへ、4.25 USD下がります。差し引きで残るのは0.75 USDだけです。
これは偶然ではありません。低スプレッドの口座はキャッシュバック率も低く設定されるのが一般的だからです。スプレッドを削った分だけ、IBに配分される原資も減ります。結果として、実質コストの差は縮まります。
すべての業者でこの打ち消しが起きるわけではありません。業者によっては低スプレッド口座の還元率がほとんど下がらず、実質コストの差が大きく残ることもあります。一律に「ECNが有利」とも「スタンダードが有利」とも言えません。個別の比較は実質コストで口座タイプを比較した記事をご覧ください。
5. 打ち手②:業者変更は実質コストで判断する
2番目に効くのが業者の変更です。ただしここでも、スプレッドの狭さだけで選ぶと判断を誤ります。
| 業者 | 往復コスト | キャッシュバック | 実質コスト |
|---|---|---|---|
| Exness | 11 USD | 7.0 USD | 4.0 USD |
| IC Markets | 10 USD | 5.5 USD | 4.5 USD |
| TitanFX | 12 USD | 5.0 USD | 7.0 USD |
| XM | 16 USD | 8.5 USD | 7.5 USD |
| AXIORY | 15 USD | 4.25 USD | 10.75 USD |
XMからExnessへ移した場合、実質コストは7.5 USDから4.0 USDへ。1ロットあたり3.5 USDの差です。月30ロット、1ドル150円で換算すると年間189,000円になります。
一方でAXIORYは、往復コストがXMより1 USD安いにもかかわらず、還元率が低いため実質コストは3.25 USD高くなります。スプレッド比較の順位と、実質コストの順位は一致しません。
EAの稼働が許可されているか、スキャルピングに制限がないか、約定に問題がないか。コストだけで決めると、規約違反で利益が取り消される事態もあり得ます。判定の手順はEA運用に向く業者の選び方にまとめています。
6. 打ち手①:還元の導入がなぜ最大なのか
還元の効果額が大きくなるのは、計算式が単純だからです。
キャッシュバックは1ロットあたりの金額が決まっていて、取引量にそのまま比例します。月30ロットでCB率8.5 USDなら、月255 USD、1ドル150円で38,250円。年間459,000円です。勝ち負けにも相場にも左右されません。
- 負けたトレードでも発生する。取引量にのみ比例する
- EAの設定を変えなくてよい。ロジックにもパラメータにも触らない
- 取引を続けるかぎり毎月積み上がる。1回きりの施策ではない
とくに1つめは、EA運用で意味を持ちます。負けが込んでいる時期ほど、還元が損失を軽くする方向に働くからです。利益は勝ったときにしか増えませんが、還元は取引した分だけ確実に発生します。
7. 積み上げるとどうなるか
3つの打ち手のうち、①と②は同時に実行できます。還元を受け取る形で新しい業者の口座を開けば、1回の手続きで両方が済むからです。
年間コストは864,000円から216,000円へ。4分の1になります。仮にEAが年間70万円の利益を出しているなら、現状ではマイナス16万円ですが、2つの打ち手を実行すればプラス48万円です。
この計算にロジックの改善は含まれていません。EAの実力はまったく同じで、コストの構造だけを組み替えた結果です。より詳しい損益の分解はEAが勝てない理由を扱った記事をご覧ください。
8. 実行の順番
効果額の順に並べたので、実行順もそのまま従えば効率的です。
- ① 過去1年の取引履歴からロット数の合計を出す。効果額の計算に必要
- ② 還元を受け取る仕組みに登録する。最大の効果額をまず確保する
- ③ 実質コストで業者を選び、その業者の口座を開く。②と同時に済む
- ④ 口座タイプは、その業者の実質コストを見て決める
ひとつ構造上の注意があります。キャッシュバックの紐づけは、口座を開設したときに経由したリンクで確定します。すでに持っている口座を後から還元対象に変えることはできません。
そのため、②を先に済ませてから③の口座を開くという順序が重要になります。逆にしてしまうと、開いたばかりの口座が還元の対象外になり、もう一度開き直すことになります。手順の詳細は自動リベートの記事で確認できます。
9. よくある質問
10. まとめ:効果額の順に手を付ける
- 還元の導入が最大。月30ロットで年約459,000円
- 業者の変更が2番目。実質コストで選べば年約189,000円
- 口座タイプの変更は最小。還元率も下がるため年約40,500円
- 語られる頻度と効果額は逆順。情報の出どころの偏りによる
- ①と②は1回の手続きで同時に実行できる。順番だけ間違えない
EAの収支改善というと、多くの場合は口座タイプの見直しから始まります。それ自体は間違いではありませんが、効果額で見れば最後に手を付ける項目です。先に大きいほうを片付けたほうが、同じ労力で動く金額がまったく違います。
3つの打ち手はいずれも、EAの勝率を1パーセントも上げません。相場を予測する必要も、パラメータを触る必要もありません。それでも年間で69万円が動きます。
自分のEAでいくらになるかは、過去1年のロット数を出せばすぐに計算できます。取引コスト計算ツールで、現在いくらを取りこぼしているか確認してみてください。