1. コスト比較から始めると順番を間違える
EA向けの業者選びは、ほとんどの場合スプレッドの比較表から始まります。数値が並んでいるのでわかりやすく、比較した気にもなれます。
しかしEAには、裁量トレードにはない性質があります。規約に触れる取引でも、指示どおり繰り返し実行してしまうことです。
裁量なら、規約に触れそうな取引は手を止められます。ところがEAは止まりません。1日に数十回動くEAなら、1週間で数百回です。問題が発覚するのは、たいてい出金しようとしたときです。そこまでの利益が取り消されることもあります。
どれだけコストが安くても、これが起きれば意味がありません。そこで判定を3段階に分けます。
第1関門で規約を確認し、第2関門で約定を確かめ、通過した業者だけを第3関門の実質コストで並べる。コストは最後に見る項目です。ただし最後だから軽い、という意味ではありません。後述するとおり、年間で数十万円規模の差になります。
2. 第1関門:規約で確認する4項目
最初の関門は、そのEAの動き方が業者の規約の範囲に収まっているかどうかです。
自動売買については、海外FXでは認めている業者が多数派です。XMやAXIORY、TitanFXなど主要な業者はEAによる取引を許可しています。一方で、スキャルピングや自動売買を制限している業者も存在します。
同じ業者でも、口座タイプによって条件が違う場合があります。ボーナスが付く口座では取引方法に制限があり、低スプレッド口座では制限がない、といった形です。業者名だけでなく、使う口座タイプまで含めて確認してください。
両建てについては、同じ口座のなかでの両建ては一般に問題とされていません。注意が必要なのは、複数の口座にまたがる場合や、業者をまたぐ場合です。ボーナスやゼロカットの仕組みを利用する目的とみなされると、違反として扱われることがあります。
3. EAで違反になりやすいロジック
もう少し踏み込んで、EAのロジックそのものが問題になる類型を整理します。
とくに注意すべきは1行目です。価格配信の遅延を利用して確実に利益を取る設計のEAは、多くの業者で禁止されています。取引の趣旨から外れるという判断です。
この種のEAは、バックテストでもフォワードでも非常に良い成績を示します。成績が良いからこそ導入され、良いからこそ発覚したときの取り消し額が大きくなります。「勝ちすぎるEA」には、なぜ勝てるのかを確認する価値があります。
- このEAは、なぜ利益が出る設計になっているのか
- 相場の値動きから取っているのか、仕組みの歪みから取っているのか
- 複数の口座や業者を前提にしていないか
相場の値動きから取る設計であれば、通常は問題になりません。仕組みの歪みから取る設計であれば、規約を丁寧に確認する必要があります。
4. 第2関門:約定を実際に確かめる
規約を通過したら、次は約定です。ここは資料を読んでもわからないため、実際に動かして確認します。
| 確認する項目 | 見るポイント |
|---|---|
| 約定拒否の頻度 | 注文が通らないことがどれくらいあるか |
| 価格のずれ | 想定した価格からどれだけ離れて成立するか |
| 指標発表時の挙動 | 拡大や拒否がどの程度起きるか |
| 接続の安定性 | 切断や遅延が発生していないか |
確認方法は単純で、最小に近いロットで数十回動かして記録を取ることです。この段階では成績を見る必要はありません。注文が想定どおり成立しているかだけを見ます。
この確認を飛ばすと、後から成績が想定と食い違ったときに原因の切り分けができなくなります。ロジックの問題なのか、約定の問題なのか、コストの問題なのか。先に約定を確かめておけば、残りは計算で切り分けられます。切り分けの手順はEAが勝てない理由の記事で扱っています。
5. 第3関門:実質コストで並べる
ここまで通過した業者を、はじめてコストで比較します。比較の単位は1ロットあたりのUSD建て、指標はスプレッドと取引手数料を足し、キャッシュバックを引いた実質コストです。
注目すべきはXMとAXIORYの関係です。往復コストではAXIORYのほうが1 USD安いのに、還元まで含めると3.25 USD高くなります。月30ロットなら年間175,500円の逆転です。
スプレッド比較の表だけを見ていると、この逆転は見えません。還元は表に載らない項目だからです。pips換算での詳しい検証はスプレッドの影響を扱った記事をご覧ください。
表の1位と最下位を比べると、年間の負担は216,000円と580,500円。差は364,500円です。EAのロジックを改善して年間36万円を上乗せするのは簡単ではありませんが、業者選びなら選ぶだけで済みます。
6. 口座タイプの選択は最後の微調整
業者が決まったら、次は口座タイプです。ただしここは効果が小さい項目なので、時間をかけすぎないでください。
| XMの例 | 往復コスト | キャッシュバック | 実質 |
|---|---|---|---|
| スタンダード口座 | 16 USD | 8.5 USD | 7.5 USD |
| ゼロ口座 | 11 USD相当 | 4.25 USD | 6.75 USD |
| 差 | 5 USD | 4.25 USD | 0.75 USD |
往復コストの差は5 USDありますが、還元率が4.25 USD下がるため、実質では0.75 USDしか変わりません。低スプレッドの口座は還元率も低く設定されるのが一般的だからです。
この打ち消しの大きさは業者ごとに違うため、一律に「ECNが有利」とは言えません。個別の比較は口座タイプの比較記事で確認してください。
7. 順番を間違えると取り返しがつかない工程
最後に、手順のうえで一度きりしかやり直せない部分があります。口座を開くタイミングです。
キャッシュバックはIB(紹介業者)の仕組みで成り立っており、どのIBに紐づくかは口座を開設したときに経由したリンクで確定します。あとから還元の対象に変えることはできません。
- ① 規約を確認して候補を絞る
- ② 還元を受け取る仕組みに登録する(口座開設より前)
- ③ そこから口座を開き、小ロットで約定を確認する
- ④ 問題なければ本番のロットへ移行する
②を飛ばして③に進むと、約定確認に使った口座がそのまま本番の口座になり、還元の対象外のまま運用が始まります。すでに口座を持っている場合は、同じ業者に追加口座を作ってEAを移す形で対応できます。
8. 複数の業者に分散すべきか
EAを複数動かしている場合、業者を分けるかどうかという判断もあります。
| 1社にまとめる | 複数社に分ける | |
|---|---|---|
| 資金効率 | 証拠金を集約できる | 分散して管理が煩雑になる |
| 障害への耐性 | その業者が止まると全停止 | 片方が生き残る |
| 還元の管理 | 1か所で集計できる | 仕組みが同じなら合算される |
| 両建ての扱い | 同一口座内なら問題になりにくい | 口座間の両建ては規約に注意 |
最終行が重要です。複数の業者にEAを分散させると、意図せず口座間の両建てが成立してしまうことがあります。それぞれのEAが独立して判断するため、たまたま逆方向のポジションを同時に持つという状況が起こり得ます。
意図的でなくても、記録としては口座をまたいだ両建てです。分散させる場合は、EAのロジックが同じ通貨ペアを扱っていないか確認しておいてください。
9. よくある質問
10. まとめ:規約・約定・コストの順に見る
- 規約が第1関門。EAは違反を自動で反復してしまう
- 配信の遅延を突く型は多くの業者で禁止。成績が良いほど危ない
- 約定は小ロットで実際に確かめる。資料ではわからない
- コストは実質で並べる。往復コストの順位とは一致しない
- 登録してから口座を開く。紐づけはやり直せない
業者選びの記事の多くは、スプレッドの数値を並べるところから始まります。それ自体は必要な情報ですが、EAにとっては最後の工程です。規約に合わない業者や、約定に問題がある業者を安さで選んでも、結果は良くなりません。
逆に、規約と約定を確認したうえで実質コストまで見れば、選ぶだけで年間数十万円の差が付きます。ロジックを改善して同じ金額を稼ぐのに比べれば、はるかに確実な手段です。
自分の取引量でいくらの差になるかは、サイドバーの計算機で試算できます。年間の取りこぼし額は取引コスト計算ツールで確認してください。