1. 原因を特定する前に対策を始めていないか
負けが続くと、原因を探す先はたいてい手法です。損切りが遅い、ルールが守れていない、ポジションを持ちすぎている。どれも実際によくある問題で、指摘としては正しいものです。
ただし、これらはすべて「手法に問題がある」という前提から出発しています。その前提が正しいかどうかは、まだ確かめていません。
相場に負けているのか、コストに負けているのか。この2つは原因も対策もまったく違います。前者なら手法の見直しが必要ですが、後者なら手法は正しく機能しています。混同したまま手法をいじると、勝っている手法を捨てることになりかねません。
幸い、この切り分けには相場の分析もチャートの検証も必要ありません。取引履歴と、使っている口座の往復コストがあれば計算できます。
2. 切り分けの手順
手順は4つです。
ポイントは4番目です。口座に表示されている損益は、すでにコストを差し引いた後の数字です。そこに支払った総コストを足し戻すと、手法そのものが相場から取ってきた金額が見えます。これをグロス損益と呼びます。
グロス損益 = 表示されている損益 + 総コスト
この数字がプラスなら、手法は相場に勝っています。マイナスなら、コストを差し引く前から負けていることになります。
3. 実際に計算してみる
2人の例で比べます。どちらも損益はマイナスですが、中身がまったく違います。
Aさんは3か月で180,000円のマイナスです。しかし180ロットを取引しており、往復コスト16 USDの口座なら総コストは432,000円。足し戻すと、グロス損益はプラス252,000円になります。
つまりAさんの手法は、相場から25万円を取ってきています。負けているのはコストに対してです。この状態で損切りのルールを変えたり、手法を乗り換えたりするのは、方向として合っていません。
一方Bさんは、60ロットで600,000円のマイナス。総コストは144,000円で、足し戻してもマイナス456,000円です。コストを差し引く前から負けているので、こちらは手法側の問題です。
4. コスト比率で素早く見当をつける
毎回グロス損益を計算するのが面倒なら、比率だけでも十分に見当がつきます。
Aさんの場合、432,000 ÷ 180,000 で240パーセント。コストが損失の2.4倍あるので、明らかにコスト側です。Bさんは144,000 ÷ 600,000 で24パーセント。コストの影響は限定的で、手法側の問題という判定になります。
期間が短いと、相場の偏りがそのまま結果に出ます。最低でも3か月、できれば半年から1年で判定してください。取引回数でいえば100回以上あると傾向が見えやすくなります。1か月だけを見て手法を否定するのは早すぎます。
5. コストの負けだった場合の打ち手
コスト側の問題だと判定できたら、対策は3つあります。
| 打ち手 | 効果 | 手法への影響 |
|---|---|---|
| 還元を導入する | 1ロットあたり4〜8.5 USDが戻る | なし |
| 実質コストの低い口座へ移す | 往復コストが下がる | ほぼなし |
| 取引回数を減らす | コスト総額が下がる | 手法そのものが変わる |
最初に検討すべきは1つめです。手法にも取引回数にも一切手を触れずに済むうえ、効果額が最も大きいからです。
Aさんの例で計算します。180ロットにCB率8.5 USDが乗れば、8.5 × 180 × 150円でおよそ229,500円。損益のマイナス180,000円に足すと、プラス49,500円になります。
同じ取引を、同じタイミングで、同じロット数で行った結果です。変えたのは、その取引に還元が乗るかどうかだけ。マイナス180,000円がプラス49,500円になります。
3つめの「取引回数を減らす」は最後に検討してください。回数はその手法の設計に組み込まれた要素なので、減らすことは手法を変えることと同義です。回転数とコストの関係は取引回数の記事で扱っています。
6. 手法の負けだった場合もコストは下げる
グロス損益がマイナスだった場合、コスト改善だけでは足りません。ただし、コスト改善を後回しにする理由にもなりません。
理由は単純です。コストが高いままでは、手法を改善しても同じ壁にぶつかるからです。
Bさんが手法を改善して、グロス損益をマイナス456,000円からプラス100,000円まで持ってきたとします。それでもコスト144,000円を引けば、表示される損益はマイナス44,000円のままです。改善したのに、まだマイナスに見えます。
先にコストを下げておけば、手法の改善がそのまま結果に現れます。順序として先にやるべきなのは、確実に効くほうです。
7. 総コストの出し方
計算に必要な数字の集め方を補足します。
| 必要な数字 | どこから取るか |
|---|---|
| 総ロット数 | 取引履歴を書き出して、ロット数の列を合計する |
| 往復スプレッド | 使っている口座と通貨ペアの平均値を確認する |
| 取引手数料 | 口座タイプによる。スタンダード型なら0のことが多い |
| 換算 | EUR/USDなら1 pip=1ロットあたり10 USD |
スプレッドは時間帯によって変動するため、正確な値は出せません。平均に近い値、あるいはやや広めの値で概算してください。広めに見積もっても結論が変わらないなら、その判定は信頼できます。
最小スプレッドで計算すると総コストが小さく出て、実際よりも「手法の負け」に寄った判定になります。宣伝で使われている数値は避けてください。
8. 負けている時期に還元が効く理由
最後に、この文脈でのキャッシュバックの性質を確認しておきます。
| 利益 | キャッシュバック | |
|---|---|---|
| 発生の条件 | 勝ったときだけ | 取引すれば必ず |
| 負けが続く時期 | 増えない | 通常どおり積み上がる |
| 金額の予測 | できない | ロット数から計算できる |
利益は、勝ったときにしか増えません。負けが続いている時期には何も生みません。それに対してキャッシュバックは、取引量に対して発生するため、負けている時期にも同じように積み上がります。
損失を軽くする方向に働く要素は、実はそれほど多くありません。損切りを早くすることは損失の拡大を防ぎますが、すでに出た損失を戻すわけではありません。還元は、実際に金額として戻ってきます。
負けが込んでいるとき、ロットを上げて取り返そうとする判断が出やすくなります。その前に、コスト側で確実に取り戻せる金額を計算してください。詳しくは損失を取り返そうとする前に読む記事で扱っています。
9. よくある質問
10. まとめ:足し算と掛け算で原因がわかる
- グロス損益 = 表示されている損益 + 総コスト
- プラスなら手法は勝っている。負けているのはコストに対して
- コスト比率が100パーセント超なら、手法を触る前にコストを見る
- どちらの判定でもコスト改善は実行する価値がある
- 還元は負けている時期にも同じように積み上がる
負けが込んでいるときほど、原因の特定を飛ばして対策に走りがちです。何かを変えないと落ち着かないからです。しかし原因が違えば、打ち手も違います。
取引履歴を開いてロット数を合計し、往復コストを掛けて、損益に足し戻す。作業としては10分程度です。この10分で、手法を捨てるべきかどうかが判定できます。
自分の取引量でいくら戻るかは、サイドバーの計算機で試算できます。年間の取りこぼし額は取引コスト計算ツールで確認してください。